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第32回海外環境衛生施設視察を実施2025年11月21日




2025年度の第32回海外環境衛生施設の視察は、10月5日(日)〜12日(日)の8日間(コペンハーゲン2泊、アムステルダム3泊、機内2泊)で、コペンハーゲンのVESTFORBRAENDIG waste-to-power(廃棄物焼却発電施設)とARC廃棄物焼却発電施設(通称コペンヒル)、アムステルダムのヴァーターネット(アムステルダム西下水処理場)、オムリン(廃棄物処理施設)の 2か所4施設を回る行程で実施しました。

視察団は岡田団長、小玉副団長以下合わせて11社16名の参加者となり、また現地は晴れ/曇り/雨が日々、或いは時間単位で変わる中ではありましたが、事故もなく予定どおりの行程で視察を終え帰国することができました。

視察の概要は以下のとおりです。(視察順)

1.ARCごみ焼却発電施設(コペンヒル)
デンマーク国内で正体不明のドローンが飛来し、国家レベルでのセキュリティが強化されたため、VESTFORBRAENDIG waste-to-powerの視察受け入れがキャンセルになり、ARC(コペンヒル)は施設内の視察受け入れはキャンセルとなり、外観のみの視察となったが、ARCが運営するリサイクルステーションの視察ができた。

(1)運営会社「ARC」の概要
ARCはコペンハーゲン市及び近郊の4つの自治体が共同で運営する廃棄物資源化の公共会社である。名称の「ARC」はAmager Resource Centerの略称で、その理念は「From Waste to Resource(ごみを資源へ)」という明快なものであり、廃棄物を最終的に処分するのではなく、再利用・再資源化・エネルギー化することで、ごみゼロ社会の実現を目指している。なお、ARCの事業は大きく以下の3つに分類される。
1)ごみ焼却発電施設(Amager Bakke 通称コペンヒル)
コペンハーゲン地域の暖房需要の約10万世帯分をまかなっている。
2)リサイクルステーションの運営
市民が日常生活で出す不用品や資源物を自ら持ち込み、素材ごとに分類、再資源化する。
3)環境教育・情報発信
学校教育や見学プログラムを通じて環境について学ぶ機会を提供、特にAmager Bakkeは「発電所でありながら観光・教育施設」として環境技術を身近に感じられる。

(2)ごみ焼却発電施設の概要
焼却方式    :ストーカ式焼却炉 主蒸気圧力   :69bar
系列      :2系列 主蒸気温度          :440℃
処理能力    :35t/h・炉×2系列 発電量     :64MW
ごみピット容量 :22,000トン 焼却運営開始 :2017年3月

(3)コペンヒル(Amager Bakke)の特徴
ARCの象徴ともいえるごみ焼却発電施設であり、全景を見るだけでも施設の規模の大きさを感じられる。アクリル張りのエレベータから覗いた場内配管の太さからも日本の火力発電所規模である。

設計は世界的に有名な建築家グループ「Bjarke Ingels Group」によって実施されており、単なる焼却施設ではなく、「美しいインフラ」という新しい概念を体現している。
コペンヒルの特徴として、建物全体がなだらかな傾斜を描いており、建物は85mと高く、屋上にはカフェが併設されたスキー場があり、コペンハーゲンの街並みや港湾部を一望できる絶景スポットとなっている。また、ボルタリングやハイキングなども楽しむことが出来る。

「ごみ焼却施設を市民が集う場所に変える」という発想は、これまでのごみ焼却施設のイメージを払拭する環境先進国に相応しい施設であり、環境技術を社会に開くうえで非常に重要である。私たち日本の施設においてもコペンヒルから学ぶべきことは多い。


コペンヒル施設外観            エレベータから覗いた施設内部
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ハイキングコース                 集合写真
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(4)リサイクルステーション及びDelecentralen(再利用ステーション)
ARCが運営するリサイクルステーションは、市民が自らの手で資源を分別・搬入することを基本した施設である。デンマークでは、ごみ収集の多くが自治体による回収と同時に、市民自身が持ち込む仕組みを組み合わせており、「自分のごみは自分で責任もって処理する」という意識が強く根付いている。

リサイクルステーション内には「Delecentralen(デーレセントラーレン)」が併設されている。ここは、まだ使用可能な家具、家電、玩具、日用品などを再利用するためのステーションである。市民は不要になった品物を持ち込み、スタッフが状態を確認した上で再利用可能な物品を展示・保管する。この仕組みにより、地域の中の物が循環し、廃棄量を減らすだけでなく、市民同士が「モノを共有する」文化を育んでいる。リユース品の提供は無料、もしくは低価格で行われておりコミュニティづくりにも寄与している。


リサイクルステーション構内         再利用ステーション
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2.WATERNET(アムステルダム西下水処理場)

(1)オランダの水事業の組織
オランダの水事業の組織は、廃水、下水、浄水の3つの処理工程事業が、4つのレベル(Lv)と10社の公社から構成されている。具体的には、Lv1が国、Lv2が12の州、Lv3が393の自治体、Lv4が共通の課題を持つ組合、そして10社の公社である。Lv4に該当する組合組織は、日本では水事業においてあまり馴染みがなく、これは、近隣の自治体が出資して行うごみ焼却事業と同様の考え方であると想像される。

(2) WATERNETの組織と運営事業
WATERNETは、アムステルダム市と地域公共水道局であるAmsutel GooienVechtとの共同組織であり、日本で言うところの公社に相当し、①廃水収集(Lv3)、②下水処理および河川管理(Lv4)、③浄水(Lv3)、の3つの処理工程事業を一括で管理している。
サービスの対象は、アムステルダム市およびその周辺、さらに海面下地帯の17の自治体で約130万人。従業員は2,000人。予算は約4億€(約720億円)。飲料水供給と下水処理以外では水質管理、堤防の維持、地下水の管理など、水の都ならではの事業も手掛けている。

事業運営においては、①人々が住める街をつくる、②生態系を守る、③運河で泳ぐことのできる水質を作る、の3つの目標を掲げている。

さらに、今後の重要課題として、①施設の老朽化、②都市部の人口増、③水の汲み上げ量増大、④CO2削減、⑤環境負荷の低減、の5つを挙げている。これらの課題は日本も同様に抱えている問題であり、特にCO2削減に関しては海抜の低い国にとっては切実である。説明中は終始笑顔だったがこの時だけは真剣な面持ちであった施設のマネージャーが非常に印象的であった。

(3)視察施設の特徴
1)施設は、日本でも一般的な標準活性汚泥法を採用。全ての施設や水槽が地上に構築されており、これは低海抜と軟弱地盤に対する対策であると考えられる。
2)反応タンク設備は日本では見たことのない円筒形の構造物であった。円筒内は右回りの螺旋状に設計されている。初段では硝化のためにエアレーション、後段では脱窒が行われている。エアレーションに使用される送気エアーは、生物脱臭として臭気を送気している。
3)消化タンクは、日本でもなじみのある球体の形状をしている。一方、ガスホルダーは円筒型である。以前は場内の発電に使用されていたが、現在はグリーンガスとして近隣住民に有償で供給している。
4)処理における課題としてPFASやN2Oが挙げられている。特にN2Oについては施設で実験が行われているとのこと。送気量を変えたり流速を落として配管の落下速度を落としたりしている。

(4)特記
WATERNETは世界の26都市をベンチマークとして置き、比較によりサービスの向上や研鑽を高めていて、東京もそのベンチマークの1都市である。

「日本とは海で繋がっている。世界は繋がっているので、地球全体で様々な問題に取り組むべき」とのマネージャーのコメントがあり、この言葉には世界を見据え水や環境を良くしていこうという気概が込められて印象的であった。


WATERNET説明風景            WATERNET/マーチン氏
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現場視察風景                 現場視察風景
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ガスホルダー前で集合写真              記念品贈呈
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3.オムリン廃棄物処理施設(Omrin Ecopark De Wierde)

Omrin Ecopark De Wierdeはアムステルダム市から北西へ125kmのオランダ北部にあるフリーズラント州のヘーレンフェーンに位置し、施設周辺はのどかな牧草地が広がる。
社名であるOmrinとはフリースランド州で用いられる言語であるフリジア語で「ごみ処理場」を意味している。今回の視察では、複合施設Ecopark De Wierde内の分離プラント、発酵工場を見学した。

(1)オランダの廃棄物処理
オランダはリサイクルに対する意識が高く、廃棄物を資源として循環させる仕組みが整備されている。政府は2050までに完全な循環型社会の形成を目指しており、ごみは有益な資源と捉え取り組んでいる。具体的処理では、まず再資源化、次にバイオガス化、最後に焼却によるエネルギー回収、埋立ては出来るだけ有害物などに限る、との考えである。

(2)Omrinの事業概要
Omrinは1984年に設立した、35の自治体が株主の廃棄物管理会社であり、ごみの収集から最終処理までの以下の事業を運営している。
① 家庭や企業から出るごみの収集と分別。また、大規模集積所を14か所運営。
②回収されたごみの選別を行なう再資源化施設Ecopark De Wierdeの運営
③野菜・果物・植栽などの処理に加えて、おむつの有機ごみを発酵処理することでバイオガスを生成し、車両燃料や天然ガスの代替エネルギーとして活用。
④ごみ焼却発電施設であるReststoffen Energie Centraleの運営。リサイクルできない残余廃棄物のエネルギーを回収(発電・熱利用)
⑤焼却後の副産物である灰を資材として舗装材やコンクリートの材料などに再利用。
会社の運営は自治体や企業から得るごみ処理費、リサイクル製品の売り上げ、電力・余熱利用などで成り立っている。自治体からは70€/トンの委託処理費が入る。

(3)Ecopark De Wierdeの施設概要
Ecopark De Wierdeは、分離プラント、発酵工場、DANOドラム、プラスチック選別施設、地域仕分けセンター、最終処分場から成る複合施設である。敷地面積はサッカー場90面ほどで、約600人の従業員で運営しており、24時間稼働の施設を8時間3交代勤務で行っている。女性は全体の15%程度であり、トラック運転手、施設運転員、事務、メンテナンスなどに従事している。

施設では35自治体の約170万人から出る約1,000トン/日の家庭ごみや、10,000社以上の企業から出るごみを処理しており、搬入されたごみは選別施設とクリーンガス施設で51%がリサイクルされる。リサイクルが出来ない残りの49%は、ごみ焼却発電施設であるReststoffen Energie Centraleで処理される。

行政から事業拡大を求められており、2030年までにリサイクル率を現在の51%から75%まで上げることを目標としている。このような取り組みがリサイクル分野で世界的に注目されており、各国から年間75組程度の視察を受け入れている。なお、日本からの視察は今回が初めてであった。
1) 分離プラント
約120台/日のトラックにより搬入される「混合ごみ」は、ふるい機、磁選機、風力選別機、赤外線選別機により、プラスチック、金属、飲料容器、バイオガス原料、砂・砂利・ガラスに選別され77%が再資源化される。更に飲料容器などは、鉄、非鉄、紙、プラスチックに再選別される。

選別後のプラスチックは7万トン/年であり、圧縮・梱包して「ベール」と呼ばれる四角い塊にして輸出し、主にペレットに加工されプラスチック製品の原材料として多くの企業で再利用されている。例えば北欧家具・インテリアで日本でもお馴染みのIKEAでは、2025年現在でリサイクル原料を30%使用しており、2030年までに100%を目標にしているとのこと。

(4)特記
Omrinでは、事業収益を高めるための様々な工夫が執られていた。選別・バイオガス・焼却施設は各1か所に集約、混合ごみの選別施設は24時間稼働、「おむつ」はバイオガスの原料に取込んでいる。また家具、家電は高い比率で修理販売される。使用する電気や車輛燃料は100%自前で賄い、余剰は地域社会に還元される。

このような取り組みにより、補助金などの支援を受けることなく処理委託料のみで黒字経営が成されている。また、2030年までに75%の資源循環を目指し政府目標実現に向けた着実な取り組みを進めている。資源小国でありながらも大量消費に歯止めが掛からない本邦に於いて、参考とすべき取組は極めて多いと感じた。

Omrin説明風景               Omrin/ピーター氏
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現場視察風景                 現場視察風景
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記念品贈呈                    集合写真
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全ての視察先で、事業の成り立ち、操業体制、今後の展開等について熱心に説明があり、また質疑応答や施設見学に予定時間を超過して対応頂きました。
それぞれ異なる事業主体での処理体制を視察し、その背景や考え方を知ることができ、日本との違いを含めて、今後の業務を進めてゆく上で大いに参考となる有意義な視察となりました。

視察の詳細は当協会の機関誌「環境マネジメント」81号(来年3月発行予定)に掲載する予定ですので、ぜひご一読いただければと思います。


集合写真/コペンヒルを背景に
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